結局のところ、桂小太郎出現の知らせは真だったにせよ、あの逃げ足には真選組とて敵わず、桂の足取りを追えぬままとなってしまったのが今回の騒動の落ちだった。 から「真面目に仕事しろ!」とかねてからの付き合いの隊士たちはお叱りを受けていたが、そんなことは日常茶飯事であるがために大した問題ではなかった。 一応女中の身のが軽々しく口を利くのはあるべきではないので、仕事上は言葉なり動作なりを気をつけているが、暇の時は殆ど対等に接してもらっているのである。何しろ長い付き合いだ。 さて、それから2日後の爽やかな朝である。 「あ、ちょ、ちょっ、待っ、やめ、総悟!」 爽やかというには少々無理がありそうな声がとある一室から廊下に筒抜けていた。そしてその筒抜けの声を偶然通りかかった監察方の山崎は耳にしてしまったところである。山崎は、さっさと朝食を食べに行こう、と思いつつ、穏やかでない、且つ、激しく気になる台詞を聞いてしまって、うっかり足が止まってしまった。 そっと襖を2センチほど開けて、中を覗いてみる。 「何ででさァ」 「何でじゃない!起きたばっかの人間にいきなり迫ってくんな変態!」 ―――聞くなり、山崎はそっと襖を閉めた。中では寝着のまま木刀を沖田に突きつけるが怒りの形相で降臨なさっていた。想像した色っぽい話など、どこにも転がっていなかったのである。期待していた自分が馬鹿だった、と溜息を零しながら山崎は部屋の中の2人に声を掛ける。 「ふざけてると朝食、なくなりますよ!」 まさに当て付けであった。あのに限って、美男子に迫られたとしても、艶かしい展開になるなんて事は全然、なかったのである。ついでに、考えてみればみるほど、それはいつものことだったのである。 まあ当然、2人の情事に意図せず立ち会ってしまうよりは断然ましであったことには違いなかった。 「シズさん、私ご飯大盛りだから!」 「太りますぜ」 「太りません!」 と沖田が競うように足音荒く食堂に現れたのは、山崎が朝食にありついた直後であった。 白いハンカチ3 |